ラビット病

いつもどおり交番前に車がとまり、いつもどおりあたしは助手席に乗り込んだ。
いつもどおりって本当に便利だ。彼はきっと借りてきたばかりであろうCDを車のオーディオに移している。あたしはそれに合わせてなんとなく歌う。
「テケテケ言ってる」
げんなりした顔であたしを見て、あたしは少し笑った。もちろんいつもどおりに。


助手席に入るとなんか嫌な感じがした。彼は本当にあたしのことをよく見ていて、いいことはあまり褒めてくれないけど、良くないことはたいてい教えてくれる。全く嬉しくないけど。
彼があたしをじっとみる。
耳の後ろから頬の天辺を通り眉間に、彼は手をもっていく。
「お腹、すいたね」
改まった雰囲気がくすぐったくてつい言ってしまう。怪訝な顔をした後で彼は前を向いた。
「何食べたい?」
たぶんきっと、でもたぶんやさしい、彼と。


「眼赤くなってるよ」
後部座席に乗り込んだ瞬間に彼は言った。あたしはその言葉に答えない。
普段は助手席に乗るあたしが今日は後部座席に乗った。別にそれだけのことなんだけど、少し距離を感じる。だいたい、後部座席に乗ろうと判断したのもあたしなのに寂しく思うのって、なんか変だ。
バックミラー越しに見える彼のおでこを辿っていると、不意に眼が合う。反らせない。


依っていく糸それぞれに欲しくってループしながら見る観覧車