ケータイ短歌の現場より(12) ケータイから見る短歌コミュニティ...2ちゃんねる、mixi、itokioの比較

前回のA.Iの連載の記事で、ケータイから参照できる大きなコミュニティ、「2ちゃんねるhttp://www.2ch.net/)」「mixihttp://mixi.jp/)」「itokio(http://itokio.com/)」というサイトを紹介しました*1。サイトの大きさや、性質によって、集まる短歌の傾向が違うのではないか、という問いかけでした。
これは「匿名度」によってもちがうのではないか?ひとくくりに「ネット短歌」と言われる作品群でも、ネットと短歌の関わり方に対する考え自体、コミュニティによってずいぶん違うのではないか?と思ったのです。


今回は、いくつか例をあげてみたいと思います。

ローソクの あかりもいいね ちいさくて
 本など読めない みつめるしかない(by 名無しさん@一周年)

2ちゃんねる575・短歌板「短歌(五七五七七季語いらず)・その4」より。キュートな歌だと思います。
「名無しさん」「詠み人知らず」というのは、匿名投稿である場合の「名前」欄に記入される記号です。
2ちゃんねるでは、慣例として固定のハンドルネーム(コテハン)はあまり見られず、匿名投稿の多いサイトとして知られています。575・短歌板では、それでも幾人かのコテハン歌人さんがいらっしゃるようですが、数は多くありません*2

ひとつだけ
願いをかなえて
くださいな
想いを届けて
叶わなくとも
(名無しさんの初恋)

これは純情恋愛板「【純情】恋心短歌【恋愛】弐」より。
変な意味で「短歌慣れ」していないスレッドのほうが、「普通の人の短歌観」を現しているようで面白いです*3
匿名さんの短歌の傾向として、「短歌も匿名的である」…。短歌を読んだだけでは、その人のパーソナリティまでは見えてこない部分があるようです。上記の歌も「だれにでも当てはまるような」共感を求めていますよね。
短歌は「人」の文学であり、短歌的に言えば、私性を切り売りしたもののほうが評価が高いのだと思いますが、
ネット短歌に限っては、「匿名性」いわば「つながりを含むゆるやかな大きな思想」を詠んだものが、ぽこぽこと生まれているように感じられます。


【1st...】
負けたって何度も挑戦するようなバイキンマンにあたしはなりたい
勉強も恋もだなんて青春は現在進行形の活用
白球とあなたの姿さえ追えばよかった青春時代が終わる
思い出で濡らしたままの制服に夢と希望を重ねて染める
またひとつ大人になった僕たちの風車はひとつ右へとずれる
曇りなき瞳で世界を見ていたいとんぼのみずいろめがねのように
春風と青空背にして今日はただ理想論だけ喋っていよう
[飯.]
08/18 01:41(0010)

これは「ケータイでおしゃべりテーマパーク」というキャッチコピーの、itokioというサイトより。コトバ・詩・名言板「スーパーエゴイスティックヒーロー」というスレッドより引用しました。
[飯.]というのは、作者のハンドルネームですね。前にも書きました「コテハン」というやつです。
itokioでは、2ちゃんねると比較して、「コテハン」が尊重される傾向にあるので、
ひとつのスレッドを自分専用にして、連作を発表したりするような使い方もできます。
同じスレッドで、時系列順に作品を見ていくと、
たとえ記号のようなハンドルネームでも、うっすらとパーソナリティが見えてくることがあります。
例えば、このスレッドだったら、「作者は若い女性で、まっすぐに過ごしていた青春の季節が終わりつつある予感を抱いている。しかし、大人へと変化をしながらも、彼女のひたむきさは少しも失われていない」と言った具合に。
更新をリアルタイムで見続けていると、「ああ、この人は今恋をしているな」とか、「落ち込んでいるのかな、どうしたのかな」など、作品やハンドルネームの背景にある「人」を追い続けるような錯覚が生まれてくるのです。



上の2サイトと比較すると、mixiに関しては「SNS」という性質もあり、ぐっと「個人」を強調されます。
各人のホームには、必ずプロフィールが掲示されますし、プロの歌人さんが歌会に参加されるようなこともあるようです。
「友人」や「友人の友人」のつながりも、匿名サイトとは違い正確な、濃い人間関係が見受けられます。
招待制のサイトなので引用は避けますが、ここでは限りなく「短歌界」の縮図が見られるなぁ、と思いました。



簡単な比較でしたが、いかがでしたでしょうか。「あぁ、こういうサイトもあるんだな」というように見ていただければ幸いです。
特に2ちゃんねるはあまりに膨大なため、ひとことで「2ちゃんの短歌はこうだ!」とはなかなか言い切れないのですが、玉石混交の見本のようなスレッド群を見ているだけでも面白いと思いますよ!

*1:もちろん、PCから閲覧することもできます

*2:この記事で紹介している短歌は、2ちゃんコテハンさんの短歌はあえて外しています

*3:短歌も俳句も川柳も詩も一緒くたに認識しているのが「普通の人」です。「短歌は57577で、歴史はわかってもらえて当然」と思っている「歌人さん」は、伝統に奢っていると思います