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ウェブマガジン週刊『歌ってる?』短歌同人誌『歌クテル』*1の別冊ブログです。
連載陣が毎週交代で、短歌に関する読み物を書いています。




【連載歌人】〜2007年12月



【過去の執筆者】




エデンの軌道 SE

「僕は好きだな、この音。なんだか生命的な感じがするよ」

「うん。なんだか生命的な感じがしてきた。この音」

「少し窓を開けた方が良いと思うけど」

「うん。窓は開けよう、カーテンはどうしたら良いだろう」

「カーテンは開けた方が良いよ」

「そうだね。カーテンは全部開けよう」

「ここから月が見えるんだね。僕は此処へ何度も来たけど此処から月を見たのは初めてだと思う」

「此処から君と月を見たのは初めてだ」

「ねえ。月にはエデンは在るのかな」

「エデンは無いよ」

「エデンの人はカップヌードル食べてるのかな」

カップヌードルは食べて無いよ」

「そっか。エデンも無いしカップヌードルも食べて無いんだ」

「がっかりしたかい」

「僕はがっかりした」

「はやく食べた方が良いよ」

「そうだね。早く食べよう」

「生命的な音のする食べ物だろ」

「音だけだよ」

「でも、元々は生命だった」

「僕は罪深い女だな」

「君は罪深い女だ」

「でも、これ凄く美味しいよ」

「うん。凄く美味しい」

「そういえば少し前に月の夢をみた。僕が月にいたんだ。月には兎が沢山植えてあって地平線の向こうまで兎だった」

「誰かが兎を植えたんだね」

「僕はその兎を収穫した。それが僕の仕事なんだ。触ったり嗅いだりして、もう収穫して良いかどうか確かめるんだ。誰かに教わった訳ではないけど、きっと誰もがそういう風にするのだろうと思った」

「それは大変だったね。宇宙服は着て無かったのかい」

「宇宙服を着ていた」

「それは変だな。宇宙服を着たまま匂いは嗅げない」

「実際にはそうかも知れないけど僕には嗅げたんだ」

「そう、夢の中だからね。で、その収穫した兎はどうなるんだい」

「わからない。僕にはわからない。僕は収穫だけが仕事だから。引き抜いた兎は耳を縛って束ねるんだ」

「後で誰かが回収するんだね」

「きっとそうだと思う。耳を束ねられた兎はじっと待っていた」

「逃げたり、暴れたりはしないんだね」

「そうさ。じっと待ってる。誰かが来るまで。じっと待っているよ。そして僕は延々と兎の耳を束ねるんだ」

「誰が植えたのか知らないけど、やっぱり兎は月に適しているんだね」

「でも僕は不思議に思うんだ。なんで兎なんだろう。普通、月と言えば駱駝なのに」

「えっ、月には兎だろ。普通は」

「駱駝だよ。月の砂漠の唄知らないの、月の砂漠には駱駝がいるんだよ」

「唄は知っている。しかし君は間違ってるよ。あれは月にある砂漠の唄では無くて、月の昇っている地球の砂漠の事を謡った唄だよ」

「それは本当なのか。月の砂漠で駱駝が歩く唄では無いの」

「ない」

「僕は子供の頃から月には駱駝が住んでいるものとばかり思ってた」

「そんな事を考えている女の子は日本中できっと君だけだと思うよ」

「……」

「……」

「あ、さっきより月が右に動いてる」

「うん、あのマンションからだいぶ離れてきたね」

「あれ、こっちに来るかな」

「きっと来ないと思うよ。月の軌道は此処を通って無いから」

「そうだね。月は来れないね」

「君、まだ食べるのか」

「僕はもう少し食べる。生命的な音の食べ物」



 *


恐らくは月の軌道に触れている音 右の手は砂丘を求む


今、月に居て云うなれば《ただいま電波の届かないところにいるか電源が入っていない為かかりません》って感じで見ている地球


遺伝子の転写の如く望月のワタシはレイの一族デアル

ラビット病

いつもどおり交番前に車がとまり、いつもどおりあたしは助手席に乗り込んだ。
いつもどおりって本当に便利だ。彼はきっと借りてきたばかりであろうCDを車のオーディオに移している。あたしはそれに合わせてなんとなく歌う。
「テケテケ言ってる」
げんなりした顔であたしを見て、あたしは少し笑った。もちろんいつもどおりに。


助手席に入るとなんか嫌な感じがした。彼は本当にあたしのことをよく見ていて、いいことはあまり褒めてくれないけど、良くないことはたいてい教えてくれる。全く嬉しくないけど。
彼があたしをじっとみる。
耳の後ろから頬の天辺を通り眉間に、彼は手をもっていく。
「お腹、すいたね」
改まった雰囲気がくすぐったくてつい言ってしまう。怪訝な顔をした後で彼は前を向いた。
「何食べたい?」
たぶんきっと、でもたぶんやさしい、彼と。


「眼赤くなってるよ」
後部座席に乗り込んだ瞬間に彼は言った。あたしはその言葉に答えない。
普段は助手席に乗るあたしが今日は後部座席に乗った。別にそれだけのことなんだけど、少し距離を感じる。だいたい、後部座席に乗ろうと判断したのもあたしなのに寂しく思うのって、なんか変だ。
バックミラー越しに見える彼のおでこを辿っていると、不意に眼が合う。反らせない。


依っていく糸それぞれに欲しくってループしながら見る観覧車

ケータイ短歌の現場より(12) ケータイから見る短歌コミュニティ...2ちゃんねる、mixi、itokioの比較

前回のA.Iの連載の記事で、ケータイから参照できる大きなコミュニティ、「2ちゃんねるhttp://www.2ch.net/)」「mixihttp://mixi.jp/)」「itokio(http://itokio.com/)」というサイトを紹介しました*1。サイトの大きさや、性質によって、集まる短歌の傾向が違うのではないか、という問いかけでした。
これは「匿名度」によってもちがうのではないか?ひとくくりに「ネット短歌」と言われる作品群でも、ネットと短歌の関わり方に対する考え自体、コミュニティによってずいぶん違うのではないか?と思ったのです。


今回は、いくつか例をあげてみたいと思います。

ローソクの あかりもいいね ちいさくて
 本など読めない みつめるしかない(by 名無しさん@一周年)

2ちゃんねる575・短歌板「短歌(五七五七七季語いらず)・その4」より。キュートな歌だと思います。
「名無しさん」「詠み人知らず」というのは、匿名投稿である場合の「名前」欄に記入される記号です。
2ちゃんねるでは、慣例として固定のハンドルネーム(コテハン)はあまり見られず、匿名投稿の多いサイトとして知られています。575・短歌板では、それでも幾人かのコテハン歌人さんがいらっしゃるようですが、数は多くありません*2

ひとつだけ
願いをかなえて
くださいな
想いを届けて
叶わなくとも
(名無しさんの初恋)

これは純情恋愛板「【純情】恋心短歌【恋愛】弐」より。
変な意味で「短歌慣れ」していないスレッドのほうが、「普通の人の短歌観」を現しているようで面白いです*3
匿名さんの短歌の傾向として、「短歌も匿名的である」…。短歌を読んだだけでは、その人のパーソナリティまでは見えてこない部分があるようです。上記の歌も「だれにでも当てはまるような」共感を求めていますよね。
短歌は「人」の文学であり、短歌的に言えば、私性を切り売りしたもののほうが評価が高いのだと思いますが、
ネット短歌に限っては、「匿名性」いわば「つながりを含むゆるやかな大きな思想」を詠んだものが、ぽこぽこと生まれているように感じられます。


【1st...】
負けたって何度も挑戦するようなバイキンマンにあたしはなりたい
勉強も恋もだなんて青春は現在進行形の活用
白球とあなたの姿さえ追えばよかった青春時代が終わる
思い出で濡らしたままの制服に夢と希望を重ねて染める
またひとつ大人になった僕たちの風車はひとつ右へとずれる
曇りなき瞳で世界を見ていたいとんぼのみずいろめがねのように
春風と青空背にして今日はただ理想論だけ喋っていよう
[飯.]
08/18 01:41(0010)

これは「ケータイでおしゃべりテーマパーク」というキャッチコピーの、itokioというサイトより。コトバ・詩・名言板「スーパーエゴイスティックヒーロー」というスレッドより引用しました。
[飯.]というのは、作者のハンドルネームですね。前にも書きました「コテハン」というやつです。
itokioでは、2ちゃんねると比較して、「コテハン」が尊重される傾向にあるので、
ひとつのスレッドを自分専用にして、連作を発表したりするような使い方もできます。
同じスレッドで、時系列順に作品を見ていくと、
たとえ記号のようなハンドルネームでも、うっすらとパーソナリティが見えてくることがあります。
例えば、このスレッドだったら、「作者は若い女性で、まっすぐに過ごしていた青春の季節が終わりつつある予感を抱いている。しかし、大人へと変化をしながらも、彼女のひたむきさは少しも失われていない」と言った具合に。
更新をリアルタイムで見続けていると、「ああ、この人は今恋をしているな」とか、「落ち込んでいるのかな、どうしたのかな」など、作品やハンドルネームの背景にある「人」を追い続けるような錯覚が生まれてくるのです。



上の2サイトと比較すると、mixiに関しては「SNS」という性質もあり、ぐっと「個人」を強調されます。
各人のホームには、必ずプロフィールが掲示されますし、プロの歌人さんが歌会に参加されるようなこともあるようです。
「友人」や「友人の友人」のつながりも、匿名サイトとは違い正確な、濃い人間関係が見受けられます。
招待制のサイトなので引用は避けますが、ここでは限りなく「短歌界」の縮図が見られるなぁ、と思いました。



簡単な比較でしたが、いかがでしたでしょうか。「あぁ、こういうサイトもあるんだな」というように見ていただければ幸いです。
特に2ちゃんねるはあまりに膨大なため、ひとことで「2ちゃんの短歌はこうだ!」とはなかなか言い切れないのですが、玉石混交の見本のようなスレッド群を見ているだけでも面白いと思いますよ!

*1:もちろん、PCから閲覧することもできます

*2:この記事で紹介している短歌は、2ちゃんコテハンさんの短歌はあえて外しています

*3:短歌も俳句も川柳も詩も一緒くたに認識しているのが「普通の人」です。「短歌は57577で、歴史はわかってもらえて当然」と思っている「歌人さん」は、伝統に奢っていると思います

数学的短歌解剖講座

数学と短歌。
今までこの二つを結びつけて考えたことはありますか?
難しい数字や記号でいっぱいの数学*1と、文学である(といわれる)短歌。比べようって言っても、どうも両極端な気がするのが普通だと思います。
でも、やってみましょう。あえて意味のなさそうなことをしてみるのもまたよし、です。
まず・・・短歌は31音。この31を素因数分解してみましょう。・・・はい、できませんよね?すごく簡単なことですが、31は素数、です。
・・・では5・7・5・7・7の5と7ならどうでしょう。はい、これも素数です。
つまり短歌は素数の集合体みたいなものといえるかも知れません。おまけに「5」と「7」の二つは、双子素数でもあります。


素数は1とその数でしか割ることのできない自然数
そして双子素数は、差が2つの素数の組。もっとも数の近い素数の組、ということ。


なんだか・・・こうして挙げてみるとすごく不器用な感じがしませんか?
自分以外は1つのものとしか交われず(割れず)、一番近しいもの(5、7)ともけして接することも、互いに割り切れることもない。それが31という数字であり、短歌を構成する数字である。・・・そんな風に思うと、「なんとなく孤高の歌人っぽくない!?かっこいいかも・・・」なんて思ってしまう私はバカでしょうか(笑)


自分の詠んだ歌にたいしては結局自分が一番の理解者であったり、共感者になってしまうことはよくあること。交われない、割りきれないのもただ数字が素数であるということ以上に、短歌の真理なのかもしれません。
自分が一番の理解者、になってしまうのは時にはただの独りよがりでもあります。ですが、今ここではその行為の良し悪しではなく、ただ数字が見せてくれた不思議を、単純に「なんとなく歌詠みっぽいと思いません?」ということだけを楽しんでおきたいと思います。


なぜ私が今回、苦手な数学などを持ち出したかというと、『数学のできないものに、いい小説は書けない』という言葉を目にしたからです。これは芥川龍之介の言葉といわれています。小説と短歌の違いはあれど、芥川さんほどの人(この方は俳句も短歌も上手い)に、そう言われるとちょっと数学的なことにも挑戦してみたくなりますね。
余談ですが、前回太宰治の恋文について、小文を書かせていただきましたが、芥川が後の文夫人に送った告白の手紙も名文です。読んでいるこちらが恥ずかしくなってしまうほどのストレートさです。女性側としてはちょっと羨ましいかも?
ちなみに、『芥川龍之介 文ちゃん』で検索をするとじゃんじゃん出てきます。これから恋文を書かれるご予定のある方、そしてプロポーズされるご予定のある方などいらっしゃいましたら、ご参考にされてはいかがでしょうか?


「孤高の歌人」と書きましたが、ネット歌人と言われる人間もまた、そうであるかもしれません。帰属するところなく、ただ歌を詠み、思いのたけを歌う・・・。たとえ、結社や同人誌、サークル的な仲間をもっているとしても、やはり作歌活動は『一人で、地固めを』するように、黙々と続けるものではないでしょうか。
だからこそ、ネットを介してでも出会った縁は大事にしたいと思いますし、大事にしなければならないのだと思います。一つ一つが糧であり、自分自身を大きく成長させてくれるものだと思っています。
この「歌ってる?」も私にとってひとつの縁であり、私にこの場を与えてくださった方や、読者の皆様には本当に心から感謝しております。
この回を持ちまして、私の連載は終了となりますが、どこかでまた「成宮たまき」の雑文を目にすることがございましたら、その時はどうか、ご笑覧いただければ幸いです。


短い間でしたが、本当にありがとうございました。



成宮たまき

*1:私にとって

***休載のおわび***

突然ではありますが、当ブログの管理および記事を担当されていた小春川さんが、「歌クテル」および「歌ってる?」をお辞めになることになりました。
小春川さん、これまでありがとうございました。


現在連載中のレギュラーメンバーは、
A.I、市川ナツ、梳田碧、成宮たまき
の4名となります。


次回の「歌ってる?」の更新は11月17日(土)、
成宮たまきさんの記事を掲載する予定です。
2週間の休載となることをお詫び申し上げます。



さて、「歌ってる?」では、今後のリニューアルを視野に入れ、
新管理人さん及び執筆者さんを募集しております。
「歌ってる?」の活動に興味をもたれたかたなら、どなたでも歓迎いたします。
お問い合わせはutakuteru@pksp.jpまで。
ご意見、ご感想もお待ちしております。よろしくお願いいたします。

僕たちは夏、オレンジの月のように

何だかもう顔がよく思い出せないんだ。君の姿はここにあるのだけれど、顔だけがぼやけている。むしろ、抜け落ちて無いんだ。君の指とか髪の毛のかたさとか体温とか、そんな事ばかりは憶えている。もしかしたら、もっと色々な事も憶えているかもしれない。それなのに顔だけがどうしても思い出せないんだ。
僕たちは、あんなにキスをしたのに。あんなに何度もキスをしたくせに。


    ☆


「ねえ、俺の歌どれが一番好き」
「そですね、ブックエンドの歌が好きですねぇ」
「そお↓ 見てるんだあれ(汗)」
「見てますよ。ちゃんと(笑)」
「他には…」
「う〜んと、キリンの歌。うちキリン好きやし↑」
「てか、それお前が何か作ってくれっていって作ったやつじゃん↓」
「そですよ(笑) 好きですよ(笑)」
「俺は《六月の…》ってやつが自分で一番好きなんだけど」
「あ! それ傘買いに行く歌ですね。この女の人はホントに傘を買いに行ったのだろうか、と思いました(笑)」
「あと、ささやく係って何の係かなーって思いました(笑)」
「そ、そう(汗)」
「う〜ん(汗) 梳田さんの歌何かよくわかりませんよ」
「あ!あと、充電器ってやっぱり大事だよなあて思いましたあ。ケータイ使えなくなりますもんねえ」
「そ、そだね(汗)」
「それと、この女の人は右側の鎖骨を彼氏にでも褒められたんかなーて思いました↑まさか、褒めたの梳田さんじゃないでしょおね」


…沈黙


「違います!(汗)」


…沈黙


「そですか。ならいいです」


…沈黙


「て、だめですよお(汗)」
「だめですう、だめだめ。そんなのだめですう」
「なんでー」
「なんででも。だめですう」
「だから、なんで」
「そんな、いきなりぃ。だめだめだ…め…で…」


…沈黙


    ☆


僕たちは、そう、いきなり逢えなくなった。それは君のせいでもなくて僕のせいでもないのだと思う。はじめから決まっていた、簡単にいえば運命みたいなものじゃないかな。
いくつも約束をしたけど結局殆どは駄目になってしまった。僕は、約束が未来を作るんだって君に言ったけど、その時は本当にそう信じていたんだ。でも結局、約束だけでは未来は作れなかった。
でも、最後の約束だけは必ず守るよ。だから君も忘れずにいてくれ。1年後、必ず。




*温かい方の釦を押している。未来から来た少年みたい