僕たちは夏、オレンジの月のように

何だかもう顔がよく思い出せないんだ。君の姿はここにあるのだけれど、顔だけがぼやけている。むしろ、抜け落ちて無いんだ。君の指とか髪の毛のかたさとか体温とか、そんな事ばかりは憶えている。もしかしたら、もっと色々な事も憶えているかもしれない。それなのに顔だけがどうしても思い出せないんだ。
僕たちは、あんなにキスをしたのに。あんなに何度もキスをしたくせに。


    ☆


「ねえ、俺の歌どれが一番好き」
「そですね、ブックエンドの歌が好きですねぇ」
「そお↓ 見てるんだあれ(汗)」
「見てますよ。ちゃんと(笑)」
「他には…」
「う〜んと、キリンの歌。うちキリン好きやし↑」
「てか、それお前が何か作ってくれっていって作ったやつじゃん↓」
「そですよ(笑) 好きですよ(笑)」
「俺は《六月の…》ってやつが自分で一番好きなんだけど」
「あ! それ傘買いに行く歌ですね。この女の人はホントに傘を買いに行ったのだろうか、と思いました(笑)」
「あと、ささやく係って何の係かなーって思いました(笑)」
「そ、そう(汗)」
「う〜ん(汗) 梳田さんの歌何かよくわかりませんよ」
「あ!あと、充電器ってやっぱり大事だよなあて思いましたあ。ケータイ使えなくなりますもんねえ」
「そ、そだね(汗)」
「それと、この女の人は右側の鎖骨を彼氏にでも褒められたんかなーて思いました↑まさか、褒めたの梳田さんじゃないでしょおね」


…沈黙


「違います!(汗)」


…沈黙


「そですか。ならいいです」


…沈黙


「て、だめですよお(汗)」
「だめですう、だめだめ。そんなのだめですう」
「なんでー」
「なんででも。だめですう」
「だから、なんで」
「そんな、いきなりぃ。だめだめだ…め…で…」


…沈黙


    ☆


僕たちは、そう、いきなり逢えなくなった。それは君のせいでもなくて僕のせいでもないのだと思う。はじめから決まっていた、簡単にいえば運命みたいなものじゃないかな。
いくつも約束をしたけど結局殆どは駄目になってしまった。僕は、約束が未来を作るんだって君に言ったけど、その時は本当にそう信じていたんだ。でも結局、約束だけでは未来は作れなかった。
でも、最後の約束だけは必ず守るよ。だから君も忘れずにいてくれ。1年後、必ず。




*温かい方の釦を押している。未来から来た少年みたい