先日、加藤治郎さんの『環状線のモンスター』という歌集を読んでいましたら、とり・みきさんの『事件の地平線』というマンガを思い出しました。

事件の地平線

事件の地平線

『事件の地平線』というのは、様々な事件を想像(というより妄想)をひろげてパロディ化しているマンガなのですが、『環状線のモンスター』では実際の事件を扱った歌が多く、特に「ジャパン・タイムズ」という章では短歌の前の詞書にもとになっている事件を示しています。(※以下、“”内は詞書)

“マスコット人形を盗んだ男逮捕。二〇〇四年一一月一一日”
もこもこと頭の動くペコちゃんを横抱きにして月夜を駆ける

チェーンメールで中学生にイラクの邦人殺害事件の動画が出回る。二〇〇四年一一月一九日”
ケイタイの平たき中にあらわれるニッポン人の首は痛しも

『事件の地平線』も同じように一コマ目を事件のあらましから描き出しています。もう10年ほど前の作品なので、「矢がも」とか「エヴァンゲリオン」とか、今読むと「なつかしー」という感じですけども。(とり・みきさんには似たような『膨張する事件』というもっと新しい作品もあるようですが、こちらは未読です。探してるんですけどねぇ)
でも一方で『環状線のモンスター』には、

風船の萎んだ腹を撫でている何もなかったようにやさしい

画面には隣のビルの屋上に飛び移る刑事(デカ)、やりながら観る

夏だったペットボトルのがぶのみのくちびるだけがはるかなひかり

といったようなエロチックでもありながら日常的な愛の歌もあります。多分、こういう歌の方がもともと加藤治郎さんの歌の中では注目されているタイプの歌なんだと思いますけども。
重大な事件と、エロチックなことやギャグ(とり・みきさんはギャグマンガでデビューしてます)が渾然としている作風は、加藤治郎さんととり・みきさんに共通していて、なにかしらの事件を真剣に論評したりするのはちょっと照れくさいんだけれど、どこか自分の日常と重なるところでとても真剣にとらえていて、それが作風に表れているのかな、なんて思います。

でもって、ちょっと調べてみましたら、とり・みきさんは1958年生まれ、加藤治郎さんは1959年生まれでほとんど同世代なんですね。
ということで、とり・みきさん世代の年代論って、とり・みきの単行本の『ひいびい・じいびい』のあとがきにあったなぁ、なんて思ったら、それを書いてるのは沢田康彦さんだったことに気付きました。
沢田康彦さんと言えば、短歌的にはファックス&メール短歌の会「猫又」の主宰の方で、生まれは1957年。『短歌はじめました。』、『短歌があるじゃないか。』、さらには『短歌という爆弾』でも、穂村弘さんと東直子さんとの座談会方式で猫又会員の方の歌を批評してまして、私もとても参考にしている本を出していらっしゃいまして、短歌をやる人はぜひ読むべき本だと思います。
ひいびい・じいびい

ひいびい・じいびい

短歌という爆弾―今すぐ歌人になりたいあなたのために

短歌という爆弾―今すぐ歌人になりたいあなたのために

まあ、沢田康彦さんまで繋がったことは、どうということでもないんですが、<わ(環)>がなんとなくつながったな、私ゃその辺りの年代の方と親和性が強いのかな、好きな作家さん達がなんとなく繋がるのはなんかうれしいな、なんて思ったりした残暑の一日でありました。