ケータイ短歌の現場より(6) 『短歌ヴァーサス』と「歌葉新人賞」

短歌ヴァーサス (No.010(2006))

短歌ヴァーサス (No.010(2006))

笹井宏之さん、第4回歌葉新人賞受賞おめでとうございます!
といっても、賞の発表自体は一昨年の話ですので、タイムラグがあるのですが…。めでたいことは何度祝ってもいいのだ。その受賞作が掲載された、雑誌『季刊(?)短歌ヴァーサス』の10号が、ようやく発売になりましたので、今回はこの雑誌をご紹介したいと思います。
短歌ヴァーサス』は、若い世代の歌人を中心に構成された短歌の総合誌です。誌面にとりあげられている短歌の作り手は3-40代が中心かな。これは、「歌壇」の中ではかなり若手な部類です。一方、読者サイドの中心は、2-30代だと思います。インターネットで短歌を詠む(読む)、普段は活字としての短歌に触れない層の中でも、「短歌ヴァーサスだけは読んでいる」といった人も多いですよ。
理由はいくつかあります。

  • まず、全国の書店で買える、ということ。雑誌が書店で買えるなど当たり前のようですが、短歌関係の本は必ずしも書店で手に入るとは限らないのです。
  • 特集のよさ。枡野浩一穂村弘など、スター歌人を全面的に特集することで、コアな層以外も手に取りやすい雑誌だと思います。
  • インターネットとの親和性。たびたびインターネット(ネット短歌)を特集し、その取り込みの模索や問題点の追及を正面からとりあげています。編者のかたもインターネット利用者だから、現場とのズレが少ない。若い雑誌ならではの視点です。
  • 独自の新人賞の設立。短歌の新人賞では初の、インターネット上での詠草の募集。歌葉新人賞自体は第5回をもって終わってしまいましたが、他の新人賞との差別化のもと、「ここだから見いだされた」歌人がたくさん出ました。新人賞の功績は大きかったと思います。
  • それから、価格ですね。これだけ情報量があって、税込1050円は安いです。

一般的にも、コア層以外の人が「買ってもいいかな」と思える作りの本で、価格が1000円程度というのは、ちょうど手に取りやすい設定だと思います。きっちりとビジョンがある雑誌だと思います。長くつづくといいな〜。あと、年2回刊でもいいから、定期的にでてほしいです(笑)。

「はなびら」と点字をなぞる ああ、これは桜の可能性が大きい
集めてはしかたないねとつぶやいて燃やす林間学校だより
この森で軍手を売って暮らしたい まちがえて図書館を建てたい
水田を歩む クリアファイルから散った真冬の譜面を追って
     笹井宏之「数えてゆけば会えます」より

笹井宏之は100年に一度の天才です。数年後には、「笹井宏之を見いだしたのは俺だ!」という争奪戦が行われることでしょう。しかし、それはまた、別の話…。